第46回 「沖田の帰国」

やっと、ニューヨークの沖田が戻ってきた。
これで、新年度の臨戦態勢が整う。

週初(16日)の早朝、いつも通りの時間にディーリング・ルームに入ると、既に沖田はインターバンクのデスクに座っていた。

数週間前までは山下が陣取っていた席である。
太目の山下の体形とは違い、痩身で精悍だ。
日頃、テニスで体を整えてきた成果だろう。

沖田はあっちで地元のカントリークラブに所属し、週中の疲れを発散していた。
彼と幾度か対戦したこともあったが、学生時代にテニス同好会に所属していただけあって、ただひたすら遊ばれたという記憶しか残っていない。

「一年ぶりか、顔を見るのは。
毎日の様に電話で話してるから、あまり懐かしさも湧かないな」
右手を差し出しながら、声をかけた。

「そうですね。
でもまた、リアルな現場でご一緒できて光栄です」
その右手を力一杯握り返しながら、元気そうな声で言う。

‘一段と頼もしくなった様だ’

「それじゃ、とりあえず、この部屋の皆に紹介しておくか」
と言い、ディーリング・ルームを一緒に回った。

一通り、紹介し終えたところで、
「東城さんには自分一人で挨拶してこい。
その方が良い」と指示した。

 

週末の米英仏のシリア攻撃も単発で終わるとの見方が拡がり、金融市場全体にどことなくリスク・オンの気配が漂う。

日本株がそこそこ堅調に推移するなか、ドル円も107円前半で強含みに推移している。

翌日(17日)、日米首脳会談で‘トランプが安倍首相に通商上の厳しい注文を突き付けてくるのでは’との懸念が浮上し、午後に入るとドル円は一時6円89銭(106円89銭)まで下落した。

だが、下値圏でのドルは底堅さを示す。

‘もう今週は落ちそうもないな’

「沖田、ここはどう思う?
俺は先週末にショートを振ってる。
コストは60(107円60銭)だ」

「そうですね。
仲の良いヘッジファンドがドルショートを手仕舞うと言ってました。
週末までに買い戻してくるでしょうから、7円後半までは上がるかもしれませんね」

「そうか、それじゃ、50本買い戻すか。
そして新たに50本ロングする。
俺はこっちで50本買うから、お前はロンドンで50本買ってくれ」

「96(106円96銭)です」

「了解、こっちは95だ。
そっちの50本は上の利食いに充ててくれるか。

お前、昨日のニューヨークで7円25で20本ショート・メイク(ドル売り)した様だが、コストがあまり良くないな。

俺が買った50本のうち20本使うか?」

「はい、そうですね。
お言葉に甘えて、95の20本、使わせて頂きます。
残りの30本はどうしますか?」

「先週の高値は7円78だったから、
75で利食いのリーブを週末まで回しておいてくれ。
もう落ちないから、ストップは不要だ」

「了解しました」

「ところで、山下はどうだ?」
沖田がディールの処理をし終えたところで聞いてみた。

「多少英語に問題はある様ですが、何とかこなしている様なので大丈夫だと思います。
それより、支店の問題で少し気になることがあるのですが」

その会話が右手のデスクに座る野口に聞こえたらしく、こっちを向いた。

‘沖田の話は公にできない内容らしい。
場所を変えた方が無難だ’

「急ぎの話でなければ、お前の歓迎会を兼ねて金曜日の晩に聞くということでどうだ?
もっとも、帰国して間もないから、ご家族のこともある。
日を改めて構わないが」

「大丈夫です。
家内は金曜から週末にかけて、実家に行くと言ってましたから」

 

その日以降、ドル円は、日米首脳会談が波乱なく終了したことや日経平均が節目の2万2000円を抜いたことで、107円台で強含みに推移した。

 

金曜日の晩、沖田を銀座の寿司処‘下田’に連れて行った。

「旨いですね。
ここは東城さん御用達のお店ですね」

「ああ、昨年の俺の帰国祝いもここだった。
今日は東城さんの支払いで良いそうだ。
だから存分に食って飲んでくれ」

「それじゃ、遠慮なくいきますか」
小上がりに座る二人の笑い声がカウンターの方まで響き渡った。
6時半という時間のせいか、まだ店内には二人だけで、他の客に気を遣う必要もない。

その笑いに乗じて、大将が声を掛けてきた。
「了さん、楽しそうだね。
お酒は、あの時と同じ獺祭の極上版で良いかい?

東城さんからさっき電話を貰ったよ。
お二人に最高の寿司と最高の酒をだってね」
あの時とは、東城が俺の帰国祝いをしてくれた日のことだ。

‘相変わらず、気の付く人だ’

旨い寿司と酒で気持ちがほぐれたところで、
「例の支店の話って何だ?」
と切り出した。

「実は、現地企業に融資した金が焦付き、その件で山下さんにも影響が出そうなんです。
金額は2000万ドルほどですが、支店としては小さくありません。

貸出前の審査が甘かったことが原因の様ですが、支店のコーポレート・ファイナンス部門が負う不良債権に変わりはありません。

支店長は、他の部門でターゲット以上の収益を上げ、その分で不良債権を償却するという考えの様です。

要は、山下さんにも負担がかかる可能性があるということです」

「それは理不尽な話だな。

部門ごとの損失は本部制の縦割りで解決すべきことだが、支店長にも統括の責任がある。
だから店内の他部署の上がりで償却分を賄い、支店収益を落としたくないってことか。

それは、既定事実なのか?」

「支店上層部ではそうですね。
山際さんからはそう聞いています。

コンフィデンシャルとは言っても、店全体に行き亘るのは時間の問題でしょう」

「それで、山下には伝えてあるのか?」

「はい、ただ各部署の具体的負担額が決まっていないので、今の処は山下さんも動き様がありません」

「あいつも赴任早々、ついてないな。
山際さんの後任はもうスイスの横尾さんで決定だし」

‘いざとなったら、助けるしかない’

「俺も山下のことは気遣うが、お前もあいつと話していて気づいたことがあったら、教えてくれ。

あいつは体形に似合わず繊細なところがある」

「はい、心得ています」

それから一時間後、その場をお開きにした。

明日の早朝、沖田は仙台の実家に帰国の挨拶に行くという。
無理に二件目を誘わなかった。

 

沖田と別れた後、数十メートル歩いたところにある‘やま河’へと足を向けた。

「いらっしゃい、お一人?」

「ええ、山下の替わりが着任したので、今度連れて来ますよ」

「お願いします。
仙崎さんの同僚や部下でしたら、品も良いでしょうから大歓迎よ。
飲み物とアテは、いつもので良いかしら?」

「はい。
BGMはColtraneの‘Ballads’を。
音量は他のお客さんの邪魔にならない程度で」
カウンターの奥に、男同士の二人連れ、二組が静かに話し込んでいる。

‘Say it(Over and Over Again)’がTenor Saxの音色に乗って流れ出すと、彼らの聴き入る空気が伝わってきた。

トラックが‘Too Young to go steady’に移る頃には、どこからともなく「ママ、もう少し音量を上げて」という声が聞こえた。

‘嬉しい限りだ’

ラフロイグとColtrane、最高の組み合わせで至福の時が流れる。

 

社宅に戻ると直ぐ、デスクの上のPCにログインした。
モニターで全ての通貨ペアを一覧した後、チャートに目を移す。

ドル円は7円86(107円86銭)へと跳ねた様だが、その後は伸び悩んでいることを映し出している。

‘日米金利差拡大が背景’と、メディアは伝えているが、実態は沖田が言っていたヘッジファンドが買っていた円を売り戻しただけだ。

色気のない相場に見切りをつけて、Outlookをクリックした。
国際金融新聞の木村宛てに来週のドル円予測を書かなければならない。

 

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木村様

見えている与件でポジションを持つと、やられる展開ですね。

ここからは上はドルの需給が緩いと思うのですが、本邦の機関投資家も少しずつ外物を買いたがっているのは事実です。

8円台(108円台)は売りたい実需がいて、6円台は買いたい実需と機関投資家がいる。
つまり、来週もその間での揉み合いでしょうか。

でも、いずれはUSTR(米通商代表部)が動いてきますね。
中間選挙の時期を考慮すると、その動きは年前半でしょうか?

1990年代前半のパターンだとすると、ライトハイザーが‘右手に自動車部品等の輸入数量増、左手に円高’というプラカードを掲げてくることは間違いないと思います。

日本が歴然とした対米黒字国であり、‘実質実効レートで円は25%も過小評価されている’というIMFのエヴィデンスを持っているのであれば、‘ドル円の下値’はまだ深いところにあると考えておいた方が無難かもしれません。

問題は、上で書いた様にその時期ですね。
木村さん、USTRの動きで何かあったら、教えてください。

来週の予測レンジ:105円50銭~108円50銭

IBT国際金融本部外国為替課長  仙崎 了

追伸:埋め草はいつも通りお任せ致します。

(つづく)

 

この連載は新イーグルフライから抜粋したものです。

第45回 「誘い」

週初(9日)の東京市場で107円直前で寄り付いたドル円は、米中貿易摩擦やシリアを巡る米露の対立を材料に、週後半まで揉み合いが続いた。

だが、ドルの下値は先週よりも1円ほど切り上がり、安値は週前半の106円62銭で止まっている。
少しドルが上に動く兆しである。

‘1月上旬に113円台で推移していた相場が3月下旬に104円64銭まで下落したことを振り返れば、この程度のドルの戻りは当然のことだ’

相場が変化したのは、週末の金曜日のことだった。

シリア情勢を巡って米国の態度が軟化したため、日本株が堅調となり、ドル円も2月下旬以来の水準となる107円後半まで上昇したのだ。

‘ただこの先、誰が積極的にドルを買うのかが問題だ。
買うとしたら、短期のスペック(投機筋)か新年度入り直後の機関投資家か’

シリア問題の行方が見えないなか、週越えのポジションを持つにはリスクが高い状況だ。
だが、ポジションを持たないことには場が良く見えない。

思い切って、ドルを売ることにした。

 

「小野寺、ロンドンを読んでドル円50本(5000万ドル)売ってくれ」

「はい、60(107円60銭)です」
山下に匹敵するぐらいのレスポンスだ。

「了解。
ストップは入れなくて良い。
8円25(108円25銭)taken のコールレベルだけ頼む」

小野寺は「はい」と言いながら、
「課長はキナ臭い与件があるときに、週越えのポジションを持って怖くないんですか?」
と聞いてきた。

「怖くないと言えば嘘になるが、仮にトランプのシリアに対する姿勢が軟化しても、ドル円は精々108円台前半だ。

逆にシリア攻撃が行われた場合は、ドル円の下値は結構深いかもしれない。
そんな状況では様々な情報が飛び交い、市場はバタつく。

そんなときに作ったポジションは、持ち切るのが難しい。
だから、今売ってみただけだ。

それにまだ新年度が始まったばかりだ。
やられても取り戻せるしな」

「そうですか、僕はそんな勇気を持てませんが」

「ならば、試しにここで売ってみろ。
でないと、場の味も良く分からないだろ?」

「はい、それじゃ、勇気を出して10本売ってみます」
EBS(電子ブローキング・システム)のキーを叩き終えると、ニコッとしながらこっちを見た。
覚悟が決まった顔つきである。

 

そんな折、
「課長、テレビ国際の中尾さんからお電話です」
と誰かの声がした。

‘来たか’

「ディーリング用でない電話番号を教えて、そこに掛けてくれと伝えてくれ」
こっちから掛け直す必要もない相手だ。
時を待たず、デスクの上のディーリング用でない電話が鳴った。

「初めまして、仙崎です。
さっきの電話はディーリング用のなので、こちらに掛けて頂きました。
失礼致しました。

話は番組の件ですね?」

「はい、番組のキャスターを務めている中尾と申します。
番組の件でお電話させて頂きました。

お忙しいところ、突然申し訳ありません。
それで早速ですが、打ち合わせで今晩お時間を頂けませんでしょうか?」

急な話である。

「4月入りでコメンテーターを入れ替えているのですが、仙崎さんにご担当をお願いする予定の月曜日だけが決まっておりません。

今は、局の経済部の人間が担当していますが、できればゴールデンウィーク開けからでもお願いできればと存じます。

そのためには、来週中にも上に報告書を提出する必要があります。

今日の番組打ち合わせは8時からですので、その前にお時間を頂けたらと・・・」

言葉は丁寧だが、相手の言い分は関係なく、畳みかける様な口調である。
局内では誰も太刀打ちできないほどの才女らしい。

「分かりました。
それで、局にお伺いすれば、良いのですね」

「はい、そうして頂ければ、助かります。
局の入り口のセキュリティーで仙崎さんのお名前を伝えて下されば、問題ない様に手配しておきます。

今5時半ですから、6時半頃ということで宜しいでしょうか?」

「はい、それで結構です」

「それでは、お待ちしております」

 

6時過ぎに銀行を出たところでタクシーを拾い、
運転手に「麹町のテレビ国際へお願いします」と告げた。

タクシーは日比谷通りを南に下り、日比谷濠、桜田濠を右手に見ながら、局へと向かう。
桜の時期を終え、綺麗な新緑が濠沿いの歩道を飾る。

6時過ぎという時間帯のせいか三宅坂付近で少し渋滞に出合ったが、6時半前には局に着いた。

セキュリティー室の脇で待っていてくれた若手男子局員が10階にある経済部の応接室まで案内してくれた。

数分すると、身長160センチほどの細身の女性が現れた。
ウィキペディア調べでは43歳だが、幾分若く見える。
細面の美人だが、冷たい印象を受けるのは彼女の性格のせいなのか、局内で一線を維持するために被ったベールのせいなのかは分からない。

国際金融新聞の木村が言う様に男癖が悪い様には見えないが、先入観を持たない方が無難だ。

「初めまして、中尾佐江です」
と言いながら、名刺を差し出す仕草は腰が低い。

「仙崎です、宜しくお願い致します」
こっちも名刺を渡した。

早速、番組の申し合わせ事項についての説明を切り出してきた。
「ワールド・マーケット」という番組の趣旨や内容についての説明はない。
当然、銀行員ならこの番組を見てるという前提で話は進む。
とんでもない思い込みである。

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経済番組のコメンテーターの話には全く興味がないので、ほとんどこの番組を見たことがない。

ポジションも持ったことのない経済学者やエコノミスト連中の市場の話が役に立つはずはない。

一般経済についても、ロイターや新聞の情報があれば十分だ。
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暫しの間、番組の進行や事前の打ち合わせ事項についてのレクを受けた。

大凡の話を終えたところで、
「仙崎さんは独身ですか?」
と聞いてきた。

「ええ、そうですが・・・」

「私もですの。
でもバツイチで、子供付きですが」
何となく顔付きが普通の女性に変わっていた。

「へぇー、そうですか。
それは何かと大変ですね」

「ええ、でも母が子供の面倒を見てくれてますから、日常は全く独身と変わりませんのよ」
やたらと独身を強調してくる。

「そうは言っても、これだけの番組のキャスターを務めてらっしゃるのだから、何かと大変かと思いますが」

「‘慣れてしまえばって’とこかしら。
それより先崎さんのお仕事こそ、24時間だから大変でしょ。
さぞおモテになるでしょうに、デートも儘ならないんでしょうか?」

「そうかもしれませんね」と笑いながら言い、彼女の言葉をあしらった。

‘そろそろ潮時だな’

「申し訳ありません。
これから銀行に戻らなければならないので、そろそろ失礼します」
と言い、ソファーから立ち上がった。

「そうですか、それは気づきませんで、失礼しました。
それでは、5月7日にお待ちしていますので、宜しくお願いします」

応接室から出たときの彼女の顔は、既に仕事モードのベールを被っていた。
‘流石だな’

 

局を出たところでタクシーを拾うと、青山へと向かった。
ジャズ・バーの’Keith’が目的の場所だ。

人と会ったときに日時と場所を名刺に記入しておくのを習慣にしている。
車中でそれを記入しようと、彼女の名刺を取り出すと、裏面に何かが書き込まれているのが目に留まった。

そこには手書きで携帯番号、090xxxxxxxxと書かれていた。
「男癖が悪い」という彼女の片鱗を見た様な気がした。

 

Keith の重いドアを押し開けると、
マスターの「お久しぶり」という元気な声が飛んできた。

「本当にお久しぶりです。
今日は一人だから、カウンターで。

酒とアテはいつもの、そしてBGMはMiles の‘Round about midnight’をお願いします」

「山下さんがいなくなって、連れに困るでしょ?」

「でももう直ぐ、ジャズ好きがニューヨークから帰ってくるから、連れて来ますよ」

そう言いながら、スマホを取り出すと、メールを書き出した。
国際金融新聞の木村宛てである。

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木村様

今日、例の中尾さんに会って来ました。
噂は本当かも知れませんね。

だとすると、この先疲れそうな気がします。

それはそれとして、来週の予測をお伝えします。

あっちの友人からの話では週末に米国がシリアを叩く可能性が高いとのことです。

もしそうであれば、とりあえずは「株安→ドル円下落」でしょうか。

‘今晩にも発表されるかもしれない「米財務省の為替政策報告書」では日本が監視対象国に入るでしょうし、来週の日米首脳会談でトランプが貿易不均衡を追求してくることも間違いないと思います’、そう考えれば円高に振れる。

ですが、そんな筋書きは誰にでも描けそうなので、疑問が残るところです。

私もドルショートで構えていますが、先週と同様にチャートの顔つきからはあまりドルが下がらないのかもしれません。

与件から離れて予測すれば、揉み合い継続の様な気がします。

予測レンジ:104円50銭~108円25銭

IBT国際金融本部外国為替課長 仙崎 了

 

(つづく)

 

この連載は新イーグルフライから抜粋したものです。

第44回 「新年度」

左斜め前のディーリングボードの席に山下の姿はもうない。
沖田がニューヨークから戻るまでは、そこが空席になる。

少し落ち着かない感じだ。
‘当分の間、誰かをそこに座らせておくか’

「小野寺、沖田が戻るまでの間、今日からお前はここに座って野口や浅野、そして俺のサポートをしてくれ」
小野寺は昨年、IBT証券外債部から銀行に引き抜いてきた男だが、今は若手のホープとして頑張っている。

「はい、分かりました」
というと、直ぐに荷物をまとめて山下の席に移ってきた。

ボードに着くなり、周辺の皆が‘チーフへの昇格、おめでとう’などと言って冷やかした。
少し照れた様子を見せながら、‘何だか、一日警察署長みたいですね’と上手く返している。

‘何となく、良いチームに仕上がりつつあるな’

立ち上がると、‘皆聞いてくれ’と声を掛けた。
「今日から新年度だ。
また今年度もよろしく。

今年は新人の受け入れゼロだ。
沖田が戻るまでは一人欠員になるから、彼が戻るまで皆協力して頑張ってくれ。
話はそれだけだ」

言い終えると、‘はい’とか‘了解です’という元気な声が部下から聞こえてきた。

週初(2日)の市場は、静かである。
ドル円は106円台前半で寄り付いた後も、様子見の展開が続いた。

朝方に発表された日銀短観には、大企業・製造業の今期通年の想定レートは109円66銭と記されている。

‘足下のドル円相場に比して、想定レートは少し甘すぎないだろうか?’

短観上の想定レートは調査対象企業が事業の基準である。
それだけに、このままドル円が続落する様なことがあれば、ドル売りが集中することになる。

まだ米政権は通商政策で一定の距離を対日で維持しているが、中間選挙までの7カ月の間、どこかで距離を縮めてくるはずだ。

目先では、米財務省が議会に提出する「為替政策報告書」の中で、日本への言及がどの程度のものになるのかが気懸りである。

報告書は今月15日前後に公表される。

ムニューシン財務長官はかなりトランプ寄りの人物だ。
トランプが論功行賞型の人材登用に傾いていることを見抜いている彼は数カ月前、‘ドル安は、米国(の貿易)にとって良い’と臆面もなく言い放った。

そんな彼が「報告書」に対米黒字では世界ナンバー2の日本を厳しく批判してくる蓋然性は高い。

そうなれば、一挙にドル安円高が加速し、輸出企業が慌ててドルを売ってくる。

そんなことを考えていると、東城から呼び出しが掛かった。

 

執務室に入ると、東城はソファーでウォールストリート・ジャーナルをテーブルに広げていた。

「まあ、座れ」
とテーブルを挟んで反対側のソファーに手を向ける。

「何か、興味深い記事でも?」

「いや、役員会議が終わったばかりで、一休みがてらに読んでいただけだ。

ところで、前年度はよく頑張ってくれたな。
お陰で国際金融部門は好成績を残すことができた。
礼を言うよ。

そのうち、お前の好きなものでも食べに行くか」

「はい、ありがとうございます。
場所は考えておきます」
と少し笑みを浮かべなら答えた。

「年度替わりで、忙しいだろうから、もう少し先だな。

年度替わりと言えば、先週、テレビ国際の友人から電話があった。
例の経済番組への出演依頼だ。

番組自体は継続するそうだが、コメンテーターの入れ替えを行うので、このタイミングで頼みたいと言ってきた。

彼にはお前が落ち着いてからと伝えてあるが、どうする?」

「半年もお待たせしてますから、そろそろ決めないと拙いでしょうね。

分かりました。
引き受けますと、ご友人に伝えて頂いて結構です」

「分かった。
そう伝えておこう。

悪いな、お前には一銭も入らないのにな」
済まなそうに言う。

「本当にそうですね。
その分、本部長の小遣いが減るってことですが」

「そりゃ、そうだ」
二人の笑いが部屋に流れた。

心地の良い笑いを最後に、
「それでは、失礼致します」
と言って、執務室を後にした。

 

ドル円はその日のニューヨークで105円66銭まで下落した。
NYダウが大幅に下落したのに連れたのだ。

翌日(3日)の東京でも、軟調となったNY株式市場の地合いを受け継ぐ格好で、日経平均が大幅安となった。

為替市場もこれに連れてドル売り円買いの動きとなったが、前日の安値を更新するまでには至らなかった。

少しドルがショート気味だな。
ここで下がらないと、週末の米雇用統計に向けてショートの踏み上げが起きる。
果たして、その日の海外でドル円は106円台後半へと跳ね上がった。

翌日(4日)の夕方、ドルが少し下がったところで、
「課長、ここの辺は買いどころでしょうか?」
小野寺が聞いてきた。

ドル円は106円10前後で動きが止まったままだ。

「ロングしたいけど、貿易制裁を巡って米中の出方が気になるってことか?

それを頭の隅に残しておくのは良いが、今は市場の心理だけを考えろ。
先週と今週前半、ドルを叩いても落ちなかったんだ。

こんな状況では、少しドルが上がると思った方が良い。

来週以降は分からないが、今週はもう6円(106円)割れはないと思う。
それで、幾ら抜きたいんだ?」

「1円です」

「そっか、7円25(107円25銭)辺りで利食いを入れておくんだな。
もう少し伸びると思うが、雇用統計前だから深追いしない方が良い。

確か7円30近辺にチャートポイントがあったはずだ」

「えーと、30が3月13日の戻り高値です」

「そうか、とすれば、それより上は髭になるはずだ。
どうせ買うなら今買え、俺も買う。

俺は50本、シング(シンガポール)に行く。
お前の分はこっちのEBSで買え」

「15で10本」

「こっちは、13で30本、15で20本だ。
お前は13の10本を使え。

15の10本は、俺が引き取る。
利食いはさっきの通りで良い。
ストップは入れるな。
但し、コールレベルだけは海外に伝えておけ。

大丈夫だ。
絶対、利食えるから安心しろ」
笑みを見せながら言う。

「ありがとうございました」
不安な気持が消えたのか、小野寺の顔が先刻よりも和らいだ様に見えた。

‘少しずつ、若手を育てて行かなければ’

 

ドル円は5日のニューヨーク市場で、107円49銭まで上昇した。

週末の米3月雇用統計は、NFP(非農業部門雇用者数)の増加が予想外に低迷したため、ドルは全通貨に対して緩んだ。

ドル円は結局、前日の高値を抜くことが出来ないまま、106円95銭前後で来週を迎える格好となった。

 

土曜日の晩、社宅でBGMに Paul Desmond の Feeling Blue を流しながら寛いでいると、
スマホが鳴った。
国際金融新聞の木村からである。

「珍しいですね、木村さんから電話とは。
どうしたんですか?」

「仙崎さんにやっとテレビに出演して貰えるって話を聞いたもんですから。
ワールド・ファイナンス、いえ今月からワールド・マーケットに改名になりましたが、局の担当者達は喜んでましたよ。

期待されてますよ、仙崎さん」

「私が出たって、視聴率は上がらないですよ。
所詮、一為替ディーラーに過ぎないんですから」

「いや、財務省のセミナーも省内で大好評だった様ですし、仙崎人気は上がっているはずです」

「えっ、私がそこで講師を務めたことを知ってるんですか?」

「まあ、仕事柄、財務省やBOJ(日銀)には知り合いが多いので。
それはそうと、その番組出演の件で一つお伝えしておくことがあって、電話をさせて頂きました。

実は、番組のニュース・キャスターの中尾佐江には良くない噂が出回っています。
男癖が悪いそうなので、気を付けて下さい。

仙崎さんは風貌も仕事ぶりも格好良過ぎるから。
まぁ、その点で困ったことがあったら言って下さい。
こっちにもルートもありますから。

ところで、来週の予想はどんな感じでしょうか?」

「妙な話を聞かされたせいで、いい加減な予想になりますが、いいですね?」

笑い声だけで返事がない。
仕方なしに続けた。

「今回のNFPは意外な結果でしたが、元々データ収集の方法に問題があるので、修正の多い統計です。

とは言え、この結果を見ると、感覚的には誰しもドルを買う気にはなりませんよね。

でも、少し幾つかのチャートに変化が見られるため、目先ではドルは予想外に底堅いかもしれません。

107円台後半では少し需給が緩いと思うので、簡単にはドルが上がらないでしょうが。

そう考えれば、来週も揉み合う展開と読むのが正着かと。

予測レンジは105円~108円20銭です。

埋め草は任せます。

良い情報、いや悪い情報かな、ありがとうございました。

それじゃ、失礼します」

電話を切った後、木村の話が少し気に懸った。

テレビ国際の役員だという東城の友人からの依頼だったため出演を引き受けたが、何となく気が重くなってきた。

 

デスクに置いてあるウィスキーボトルから琥珀色の液体をグラスに注いだ。
液体はボウモア12年である。
普段ならダークチョコレートを想わせる味がするはずのアイラも、今日はどことなく違う。

途中で止めたミュージック・システムを再びオンにすると、Paul の ソフトなアルトサックスが流れ出した。

木村の話でざらついた心がソフト過ぎるぐらいソフトな音色に少しずつ癒されていく。

リンツの70%ダークチョコレートを齧りながら、ボウモアの注がれたグラスを呷り続けると、一切のざらついた気持ちが消え、急に岬のことが恋しくなった。

既にスマホを手にしている。

「元気か?」

「えっ、昨日も話したばかりなのに、元気かって変じゃない?」

「そう言えば、そうだな」

「それより了はどうなの。
相棒がいなくなってしょぼんとしてるんじゃないの?」

「まあな。
それはそれとして、5月の連休に会えないか?」

「それが、ゴールデン・ウィークに集中講義があるので、金沢に行かなければならなくなったの。
少し九谷とかも見ておきたいから丁度いいかも」

「えっ、そうなんだ。
その頃は会えると思ったのに、それは残念だな」

「ごめんなさい。
また、機会を作るから・・・」

「わかった。
それじゃ、切るぞ。
おやすみ」

「おやすみなさい」

‘何故かこのまま会えなくなる様な気がする。
いつも通りの会話だったが、ディーラーの勘だろうか?’

釈然としない気持ちを振り払う様に、再び液体を喉に流し込んだ。

 

(つづく)

 

この連載は新イーグルフライから抜粋したものです。

第43回 「旅立ち」

週初(26日:月曜日)、早朝のドル円は先週末の円買いの流れを受け継ぐ形で、下値を試す展開となったが、104円65銭止まり。

日経平均もやや堅調地合いに転じつつある。

‘これだと、今週はもうドル円の下押しは難しいかもしれないな’

「山下、俺の114円台のショート50本、買い戻してくれ。
期末前の10円抜きは無理だったな。

今日で利益を確定しておくことにする」

「80(104円80銭)です」

「了解、これで今期の俺のポジションは一切なくなった。

明日からお前は出発前の束の間休暇に入る。
これが、お前がニューヨークへ行く前の最後の仕事だな。

そろそろ昼か。
山下、昼飯、外でどうだ?」
ニューヨークのトレジャラーの入れ替えについて、話しておく必要があった。

「はい、良いですね」

「とりあえず、最後の昼飯になる。
和食にしておくか」

「高級和食ですか?」

「調子づくな」
と笑って返しながら、パレスホテル内にある会席料理‘和田倉’に電話を入れた。
運良く、個室が空いていた。

 

銀行の建物から出ると、二人は同時に深呼吸をした。

日比谷通りを走る無数の車から吐き出される排気ガスは気にはなるが、ビル内の空気よりもマシな感じがする。

一週間後の山下は、日比谷通りではなくパーク・アベニューを行き交う車の排気ガス混じりの空気を吸うことになる。

だが、ニューヨークの空は東京の空より断然青いのが良い。
その空の青さを思い出すと、ふとあっちへ戻りたくなった。

‘仮にそうできれば、山下も要らぬ苦労をしなくても済むのに’

パレスホテルは徒歩で5分ほどのところにある。

「これで当分、こっちの和食にもありつけないってことですね」

「そうだな、でも、あっちでも和食は食えるさ」
などと言っているうちに、ホテルに着いた。

‘和田倉’は6階にある。
通された部屋からは和田倉壕と和田倉橋を臨むことができる。
話が湿っぽい内容なので、眺望に救われそうだ。

「何でも良いぞ。
向こうでも和食は何でも食べられるが、まあこっちの方が旨いし、安い。
ここは高いけどな」
笑って言う。

「それじゃ、ビールと春の会席で良いでしょうか」

「ああ、そうだな。
そうしよう」

食事はニューヨーク生活の話が弾むうちに進んだ。

 

会食も終わり、デザートとコーヒーが運ばれてきた頃合いを捉えて、
「ところで山下、俺も先週末に東城さんから聞かされたばかりだが、お前に話しておかなければならないことがある・・・」と切り出した。

少し言い淀んでいると、
「何か拙いことでも?」
不安そうに聞いてきた。

「まあな。
実は山際さんの体調が悪いそうだ。
つまり、お前はそう長くは、山際さんと一緒に仕事をできない。

彼の下であれば、お前が安心して働けると思ってこの人事を進めたが、少し不安だ。

スイスの横尾さんが後を引き継ぐらしい。
日和出身の嶺常務と清水支店長とが進めている人事だ。
間違いなく決まる」

「横尾さんって優秀だそうですが、少し癖のある人だとか・・・」

「このところ彼は為替業務に携わってないし、俺も一緒に仕事をしたことがない。
だから、正直なところ、分からない。

だが、お前までもがそんな話を知っているほどだから、一応用心した方がいい」

「そうですか。でも、僕なら大丈夫ですよ、こんな性格ですから。

それに毎日、了さん、いえ課長とも話ができますしね」
と笑ってみせた。

「そうだな。
でも何かあったら、一人で抱え込まずに必ず俺に言えよ」
と返して、束の間の宴を閉めた。

‘ここでネガティヴなことを言って、ニューヨークでの仕事や生活に希望を抱いている山下を気落ちさせては拙い’

ホテルを出たところで、
「おい、お濠沿いを歩くか。
今年は桜の開花も早い。
これで当分、お前も日本の桜の見納めだ」

「そうですね。
和田倉の会食の締めが桜、最高ですね」

‘少し元気が出てきた様だ’

 

火曜日(27日)に行われた、森友文書改竄に絡む佐川元国税庁長官の国会証人喚問は大方の予想どおり、何の言質も得られないまま終えた。

それをメディアはこぞって「より深まった、行政への不信」などと伝えるが、当然のことだ。

似非資料を基に1年以上も国会が無駄な時間と税金を費やした。

反省の欠片もない政治家と官僚とのやりとりが行われている日本の状況を尻目に、世界情勢は時々刻々と変化していく。

北朝鮮問題では、中朝首脳会談、南北朝鮮首脳会談、米朝首脳会談と、矢継ぎ早に状勢が変化し、日本は完全に「蚊帳の外」に置かれた。

そんな状況下で迎えた翌日の水曜日、「北朝鮮の金正恩政権が日朝会談の開催を模索」とのヘッドラインがニューヨーク時間に飛び出た。

北朝鮮状勢が深刻化する度にリスク回避のドル売り円買いを進めてきた市場は、逆の動きに転じ、107円を覗いたのである。

その日以降、海外がイースター休暇に入り、市場は徐々に模様眺めの展開に落ち着いて行った。

日朝首脳会談の報で作られた俄かドルロング(円ショート)も次第に整理され、週末は106円25~30銭の気配で市場は終えた。

 

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山下健太郎さま

ここまで俺をサポートしてくれてありがとう。

本当に助かったよ。

残念ながら、これからはお前と俺には物理的な時差が生じることになる。

つまり、公私に亘ってこれまでの様な付き合いができなくなるってことだ。

だが、俺達は時差のない空間で生きている、そして夜討ち朝駆けも得意な人種だ。

だから、何かあれば、俺に何時でもコンタクトしてこい。

これは俺の命令だ。

お前独りで悩むことはない。

俺はお前の悩み、苦しみをすべて受け止めてやる。

東城さんが俺にしてくれている様に!

仙崎 了

追:沖田にはミッドタウン・トンネンル*に入る前に、マンハッタンの摩天楼を見渡せる場所で車を停める様に伝えてある。

その場所で、お前はきっと‘やってやる’という強い意志を抱くことになる。
間違いない。

そして仕事が苦しくなったら、そこに戻り、摩天楼を見上げろ。
きっと、‘やってやる’という気持ちが甦って来る。

その場所はそんな場所だ。
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和田倉での食事の後、濠の桜を眺めながら「機内で読め」と山下に渡した手紙である。

 

土曜の晩、いつものとおり、ラフロイグのボトルとグラスを持って、PCの置いてあるデスクへと向かった。

国際金融新聞への来週のドル円相場予測を書く為である。

だが、キーボードを叩く気にもならない。
山下のこの先のことが気に懸っているのだ。

山下は今日、羽田10時40分発のJL6便でこれからの主戦場となるニューヨークへと向かった。

見送りには行かなかった。
彼が「来なくていい」と固持したからだ。

銀行を離れれば、俺を「了さん」と馴れ馴れしく呼ぶ。
俺自身も弟みたいに接してきた。

涙を見せてしまうのが人情だろう。
見送りに来た家族に、それを見られたくない。

‘格好をつける柄でもないくせに’

頭を振りながら、グラスを一気に空けた。
ラフロイグ独特の薬くさい香りが口の中に残る。
でも、それが徐々に脳を覚醒させる。

偶然か、BGMにはYOSHIKO KISHINO の ‘Manhattan Daylight’ が流れ出した。

‘あいつもそろそろ、彼の地のデイライトを浴びる時刻だな’

 

木村様

来週から新しい期に入りますが、また宜しくお願い致します。

これで再び、私もトレーディングすることができる様になります。

2月末で収益を固めたため、3月はほとんどポジションなしの状態でした。

実際にポジションを持たないと、相場を見る目が曇り勝ちになります。

きっと来週以降は、もう少し気の利いた予測ができるかと思います。

目先の焦点は誰が積極的に107円台のドルを買うかでしょうか。

今週、107円台を覗きましたが、ドルショートの巻き戻しの結果とも言えます。

来週もまだ、下値圏での揉み合い程度と踏んでいます。
(リスク・ウェイトはまだ、下方に掛けていますが)

ところで、今週の財政金融委員会において、森友問題の渦中で喘ぐ麻生財務相は「過去数十年の歴史を見ると、(日米の長期)金利差が3%ならドル高円安に振れる」などと言ったらしいですね。

もちろん、財務省の誰かが作成した委員会用の資料に基づいての発言でしょう。

現時点で10年債の利回り格差は約2.7%ですから、このまま米金利が上昇すれば、現状の円高にも歯止めがかかると言いたかったのでしょうが、前提は金利上昇に米経済と米株式市場が耐えられるかどうかです。

また米金利上昇の持続性にも限界があるでしょう。

確かに、短期的には米金利上昇はドル買いのインセンティヴになるのは事実ですが、金利平価説を考慮すれば、金利差拡大は先のドル安円高の示唆でもあります。

まあ、麻生さんにそんな話をしても理解されないでしょうが。
未曾有も読めなかった方ですからね。

 

来週の予測レンジ:104円50銭~108円

IBT国際金融市場本部外国為替課長 仙崎了

 

(つづく)

注:
*ミッドタウン・トンネル
JFK(ケネディー空港)はクイーンズ地区の最南端にある。

ミッドタウン・トンネルはクイーンズ地区とマンハッタン島の中心部をつなぐ重要な役割を果たしている。

 

この連載は新イーグルフライから抜粋したものです。

第42回 「山下を襲う知らざる敵」

週初19日(月曜日)、財務省文書改竄問題で揺れる安倍政権の支持率が急低下するなか、株式市場に急落の兆しが見え始めた。

そんな状況下、為替市場は円買いに動いた。
106円近辺で寄り付いたドル円は、いきなり105円68銭まで下落。

 

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日本株の軟調で円買いに動くのは不自然だが、世の中に不透明感や地政学的リスクが漂い始めると、為替市場は慣行的にそんな動きをする。

これを、新聞の経済欄は真面な論調で ‘相対的に安全度が高い資産である円が買われた’ などと表現する。

円が通貨である以上、資産には違いないが、そんな表現は稚拙であり、記者の程度が知れる。

こんな時に円買いに動く参加者の多くの拠り処は、脳内に深く刷り込まれてしまった「相対的に安全資産である円」というフレーズである。

短絡的だが、短期のスペック(投機)はそれに乗らないと、日銭が稼げない。
そうしたなかで、市場の機微を見分けらながら、俊敏に立ち回れる為替ディーラーのみが生き残れる。
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それ以降、ドル円相場は106円を挟んで揉み合う展開となった。

106円半ばに近づくとドル売りが出る、105円台に入るとドル買いが出る。
そんな展開である。

21日(水曜日)のNY時間に開催されたFOMCでは、FFレートの目標値が従来の1.50%から1.75%に引き上げられることが決定され、利上げペースも今回を含んで年内3回という見込みも不変だった。

市場の予測通りの結果だ。

ドルを積極的に買う向きはいない。

声明後の記者会見でパウエル議長から「遅すぎる利上げは経済にリスクを齎す」というタカ派的なコメントが発せられたが、市場はドル買いに動かなかった。

逆に言えば、今回利上げがなかったとすれば、ドル売りが殺到するという見方もできる。
市場はドル買い材料に反応せず、ドル売り材料に反応する、そうした展開が続いていると考えるべきだ。

106円を挟んだ展開が続いているが、やはりドルの急落が起きそうな気配を感じる。

ドル円の下落では、ドル売りなのか円買いなのかを見極める必要がある。
一連のドルの下落では、両方の動きが重なるという混沌の中で、資本筋や実需の動きが複雑に絡み合う。

森友文書改竄→日本株売り、トランプの無手勝な通商政策→内外経済への悪影響→米株売り、こんな状況の中で ‘リスクオフ(回避)’ というフレーズがメディアによって吹聴されれば、市場参加者の円買い(ドル売り)を勇気づける。

決して円が安全通貨ではないのに。

‘節目の105円を試す展開は近い’

先週の土曜日に国際金融新聞の木村に送った「ドル円相場予測」では、ドルの下値(円の高値)を103円50銭に置いた。
そこまで届くかどうかは別としても、節目の105円を割り込む’ことは間違いない。

果たしてそんな展開は22日(木曜日)に訪れた。

トランプが中国に対する貿易制裁発動を命ずる文書に署名したことを契機に、NYダウが急落した。
それに連れて、ドル売りが加速し出したのだ。

その日、ドル円は105円26銭で踏み止まったが、翌日の週末には一時1000円を超える日経平均の急落に連れる格好で104円65銭まで沈んだ。

そんな折、東城からお呼びがかかった。

 

東城の執務室のドアをノックすると、
いつも通りの「おう、入れ」という落ち着いた声が聞こえた。

「お早うございます。
だめですね、ドルは」

「そうだろうな。
貿易戦争という怪しいフレーズが流布するなか、来週には佐川氏の証人喚問とあっては、
市場が不安心理に駆られても当然か。

それにしても、まだメディアは‘リスク回避の円買い’だなんて言葉を使ってるのか。
異常な金融緩和が続いてる一方で、政局がこんな状況だ。
それに日経平均も2万円の大台割れが迫っている。
円が安全通貨とは呆れるな。

スペックが円を買うだけなら、それはそれで勝手にさせておけば良いが、知らぬ間に大台が変わると、資本や実需が慌てることになる。
やっかいだな。

国際通貨としての諸機能をすべて満たしているドルが有事通貨だった遠い昔、そんなものかとも思った。

だが、円は第三国通貨としての利用度は数パーセントに過ぎないローカル・カレンシーだ。
もっとも、理論尽くめで読めないのが相場だからな」

「はい、円買いが市場の反応なら仕方ないですね。
こんなとき、市場の動きに合わせて反応しなければならないインターバンクの連中は辛いですよ」

「そうだな。
それはそうと、山下君は来週、ニューヨークに向かう予定だったな。
これを渡しておいてくれ」
餞別の品である。

「お気遣いありがとうございます。
彼が少し慣れたところで、奥さんとお子さんが向かうそうです」

「そうか。
それが、良い。

車の免許など、家族を呼び寄せる前に本人のやるべきことは多いし、仕事にも慣れておく必要がある」

「そうですね。
もっとも、ボードに座るのは同じですし、仕事の方は問題ないかと思いますが」

「ああ、ただ少し心配ごとが出てきた。
トレジャラー(為替資金部長)の山際の体調が悪いらしい。

本人は鬱気味だというが、恐らくは5年間の重責で疲れが溜まってのことだ。
こっちで暫く、楽な仕事に就かせてあげたい。

問題は人材だ。
この件は、嶺常務にも伝えてある。

嶺さんはスイスの横尾を推してきた。
統合前の片割れである日和銀行では屈指の為替ディーラーと言われた男だ。
だが、彼は性格に難点がある。

気性の良い山下と真逆の性格の持ち主、その二人のディーリングの力が同じだとしたら拙いことになりそうだ」

「そうですか、山際さんなら山下を預けても問題ないと思ったのですが、それは拙いですね。
と言って、あそこのトレジャラーのポジションは重要ですから、力のない人間は送れないですよね」

「そうだな。
もう嶺さんはニューヨーク支店長に話をしている様だから、ほぼ決まるだろう。
俺も色々と考えてみたが、今は横尾に優る人材は見つからない。

まだチューリッヒの内部事情もあって、入れ替えは数カ月先になると思うが、山際の体調のこともある。
悪戯に時間を延ばすわけにもいかない。

山下には一応、このことを伝えておいてくれ」

「仕方のないところでしょうか・・・」
東城もその言葉を引き取らない。

‘そのまま受け入れるかしかないか’

「了解しました」
と言い残し、部屋を辞した。

‘拙いな。
やはり二人に確執が生じそうで気懸りだ‘

 

その晩のニューヨークでも、ドルの軟調地合いは続いたが、ドル円は東京の安値104円65銭を下回ることはなかった。

そして104円70銭近辺で、週を終えた。

 

土曜日の晩、山下の先々のことが気になり、外食に出る気になれず、宅配ピザを頼んだ。
宅配ピザが届いたが、何となく食欲がない。
冷蔵庫からハートランドを取り出すと、ボトルごと液体を胃に流し込んだ。

いつもならBGMの選択に躊躇はないが、今日は何も思い浮かばない。
仕方なしにCDボックスから無作為に一枚を取り出した。

Kimiko Itoh の ‘Best of Best’ である。
もう内容も忘れたアルバム、一曲目のトラックは‘follow me’ だった。

Follow me to a land across the shining sea
Waiting beyond the world we have known
Beyond the world the dream could be
And the joy we have tasted

今頃、山下は憧れていたニューヨークでの楽しい生活を思い描いているはずだ。
‘間の悪いアルバムを抜いてしまった様だな’

来週早々にも、彼にニューヨークの人事について話さなければならない。
横山については人伝にしか聞いていないが、伝聞通りだとすれば、最悪の性格だ。

山下が持前の明るさで乗り切ってくれれば良いが、俺がかつて経験した様なことが彼に起きれば、潰れるかもしれない。

‘やり切れない’

半分ほど液体が残っているハートランドのボトルを一気に飲み干すと、ラフロイグのボトルとウィスキーグラスを持って、PCの置いてあるデスクへと向かった。

国際金融新聞の木村に来週のドル円相場の予測を送る前のいつものプロセスである。

 

木村様

来週のドル円相場の予測をお送りします。

まだ基調に変化はないと思います。

こうした流れはドルが急落し、そして急反発する様な形で一相場が終わることが多いと考えています。
まだそんな相場展開にはなっていません。

与件が多い、否多すぎるので、深読みし過ぎると相場に乗り遅れる、そんな感じの展開が続くと思います。

今週、シカゴ(IMM)筋が大きく投機的円ショートを手仕舞いましたが、そんな彼等の動きが今の流れを象徴しているのかと。

うちの実需(輸出関連企業)の取引先にも少し焦りがある様で、105円台でドルを売り出しました。

この先、ドルの戻り高値が105円台前半でキャップされる様だと、ドルの一段安、つまり100円割れを意識する必要があるかもしれません。

ただ、来週は102円台が一杯かと考えています。

予測レンジ:102円50銭~106円20銭

埋め草はお任せします。

 

IBT国際金融本部外国為替課長 仙崎了

 

この連載は新イーグルフライから抜粋したものです。

第41回 「春来たれり」

週初の12日(月曜日)、森友文書問題で日本中がざわつくなか、外国為替市場は模様眺めの展開となり、朝方からドル円は106円台後半での保ち合い状態が続いている。

先週の金曜日に発表された米2月雇用統計の結果だけで判断すれば、多少はドルが買われも良いはずだが、107円を試す雰囲気もない。

‘この様子だと、今週もドルの上値は重いはずだ。
ここはドルを売っても悪くはないが、期末を控えて余計なことはしたくない’

そんなことを考えていると、自分専用の電話が鳴った。

財務省の坂本からである。
「貴様、誰に何を頼んだ?」
いきなり怒り狂った様な声で食って掛かってきた。

財務省主計局から札幌財務局への転勤、しかも主計課付きという空気の様な立場での転勤は、‘将来は局長の上も間違いなし’と踏んでいた彼にとって、想像すらしなかった厳しい宣告だったに違いない。

電話の怒声に今の彼の気持ちが滲む。

「ご転勤だそうで、吉住さんから聞きました。
坂本さんは私がその件に関わったと言いたいのですか?」

「ああ、そうだ。
だから、誰に何を頼んだと聞いている」
怒りが収まっていないのか、まだ声が震えている。

こんなとき、こっちは冷静に受け止めればいい。
「勉強会の日、この先余計なことをすれば、‘霞が関にあなたの居場所がなくなる’と伝えたはずです。

それを単なる私のブラフと受け取ったあなたの思慮が足りなかったのでは?

’官邸の意向なら聴く’耳を持つあなたが、一民間銀行の為替ディーラーの言うことを無視した。

それだけのことでしょう。

でも良かったじゃないですか、主計畑だそうで」

「貴様、俺を馬鹿にするのか。
一度左遷されたら、ほとんどカムバックはない」

「あなたなら出来ますよ。
同期の中でトップを走ってきたそうじゃないですか。

でも、パワハラだけは気を付けた方が良い」

「貴様、どこまで知ってるんだ。
いつか必ずこの仕返しはしてやるから、覚えてろ!」
凄まじい声で捨て台詞を残すと、彼の方から電話を切った。
エリートを誇った男にしては、有体の捨て台詞である。

坂本の左遷理由は公にはならないが、吉住によればパワハラだという。
課内だけでなく他部署に於いても、彼の言葉によるハラスメントは相当酷かったそうである。
俺を無理やり勉強会の講師に仕立て上げたのも、そんな彼の圧力が働いてのことだった。

永田町の意向云々が取り沙汰されるなか、今回の件で俺はその意向を使った。
岬と志保を守ることが出来たが、世間で官邸主導に傾斜する政治のあり方が取り沙汰されているなか、少し負い目を感じざるを得ない。

佐川氏が理財局長だった頃の国有地売却価格を巡る決済文書問題では、オリジナル文書があまりにも克明に記され過ぎている。

その不自然な文書は、官邸により行政が歪められたことを示すエヴィデンスとして、当時の佐川理財局長とその配下の一部が残したものだったのかも知れない。

‘真相が分かれば良いが’

事の起こりや性質は異なるが、リクルート事件の影響は内閣総辞職に及んだ。
当時の首相は竹下登、そして蔵相(現財務相)は宮沢喜一。

今回は、安倍晋三首相、そして財務大臣は麻生太郎。
今、彼等の立場が問われている。

 

翌日(13日、火曜日)以降、ドル円は一時107円30銭を付けたが、伸びに欠けた。
テクニカル上では20日~25日移動平均線がドルの上値を抑えた格好である。
移動平均線はその期間の売買コストを概ね意味する。

であれば、その水準で投機筋のドルロングの投げが出やすく、ドルショートを持ちたい投機筋の売りが出やすい。

ドル建ての輸入筋は高値でのドル買いを手控える一方、その逆にドル建ての輸出筋はドルの戻り売りを狙う。

そしてドル建て資産を持つ資本筋は未ヘッジ部分を減らす*一方で、期末を控えて新規の海外証券投資を手控える。

ドルの上値が重たくなるのは当然だ。

週末(16日、金曜日)に、ドル円は105円60銭まで下落した。

 

土曜日の晩、岬からの電話があった。

「今日、主人から印鑑の押してある離婚届けが送られてきたの。
同封された手紙には札幌に転勤する旨とこれまでの詫びが書かれていたわ。

でも、これまでの主人らしくないの。
まるで人が変わったみたいに穏やかな筆致だった。

了、この間、‘何が起きても構わないか?’って私に聞いたわよね。
彼に何かした?」

‘志保の父親に働きかけたことを言える訳がない’

「いや、特に何も・・・」
言葉が続かない。
その間合いに何かを感じ取った彼女の様子が電話越しに伝わってくる。
‘拙いな’

「そう、それならいいわ。
安心した。

了には色々と心配を掛けたけど、これからは全て前向きに考えられそうな気がする。

月末までに官舎を引き払う必要があるらしいの。
それが終わるまではばたばたしそう。

ところで、山下さん、もう直ぐニューヨークね。
淋しいでしょ、了?」

「まあな。
これであいつが飲み食いする分の支払いは減るけど、正直言って淋しいよ」

「でも、毎日電話で話するんでしょう?

羨ましいわ、了と山下さんとの関係、それに東城さんとの関係もね。

私とどっちが大事?・・・・・・
なーんて、ありふれた質問はしないから大丈夫よ」

‘最後の台詞は彼女の強がりだろうか’
ふと、岬の心が遠のいて行く不安に駆られ、慌てて言葉を繋いだ。

「ありふれた質問って?

そんなことはないと思うけど。

でも、いつか他の言葉で面と向かって聞いてみたら」

「分かったわ。‘つまり、つまり’ってことね。
それじゃおやすみなさい」

電話の向こうで‘In other words,・・・・・’と彼女が歌い出す。

「ああ、おやすみ」
‘hold my hand’
‘ please be true’
という結びのフレイズまで聴くことはできなかったが、心が満たされた。

いずれにしても、坂本から離婚届けが送られてきたのは良い知らせだ。

でも、坂本はどんな内容で転勤話を岬に伝えたのだろうか。
見えを張り続けたであろう彼のこと、札幌での自分の新たな立場は伝えていないはずだ。
彼の気持ちを思うと、少し心に痛みを覚える。

‘彼が売ってきた喧嘩を買って出たまでのことだ。
売りと買いは為替ディーラーの宿命か’

頭を振りながら、テーブルの上のウィスキー・ボトルのネックを掴むと、PCの置いてあるデスクへと向かった。

昨日から洗わないままのグラスにラフロイグを注ぐと、一気に飲み干した。
そしていつもの様に、国際金融新聞の木村宛てのメールを打ち出した。

 

木村様

来週のドル円相場予測をお送りします。

内外で与件が多くて、木村さんも忙しいのでしょうね。

僕も多すぎる与件に辟易としています。

そうしたなかで、FOMCが一つの焦点ですが、利上げ決定云々よりもドットチャート(政策金利見通し)の方が気になります。

現在、長期の中立金利・中央値は2.75%ですが、これが一挙に3.25%や3.5%という水準になるまで政策メンバーの気持ちが景気過熱制御に傾いているとは思えません。
この先、精々3.0%が良い処でしょうか。

本邦では、「麻生辞任→安倍政権の崩壊」というイメージが市場で強まっている点でしょうか。

つまり、アベノミクスによる円安・株高のシナリオが崩れ、株暴落・ドル円急落という展開は有り勝ちかと。

今はそうした短絡的な読みこそが、市場に受け入れられやすいのだと考えています。

現局面では、損得勘定を気にしなくても済むエコノミストやストラテジストが綺麗に仕立て上げた悠長な相場予測は不要ということです。

そうしたなかで、ドットチャートの中立金利の水準調整はまともに採り上げて良い与件の様な気がします。・・・木村さんなら、これで一味違う記事を書けると思います。

一応、来週のFOMCにおけるドットチャートの中央値は+10bp程度(2.85%)を考えています。

予測レンジ:103円50銭~107円90銭

IBT国際金融本部外国為替課長 仙崎了

 

(つづく)

注:
*未ヘッジ部分を減らす=ヘッジ率の引き上げ→ドル建て資産であれば、フォワードのドル売りを増やすか、ドルプットの購入を増やすことで、先のドル安リスクを軽減する行為

 

この連載は新イーグルフライから抜粋したものです。

第40回 「左遷」

週初(5日)から週半ばまでドル円の下値を試す展開が続いたが、直近最安値の105円24銭(3月2日)を下回ることはなかった。

週後半の木曜日(8日)、米国の鉄鋼・アルミの関税措置問題では同盟国が除外される可能性が浮上する一方で、北朝鮮関連ではリスク回避の動きが弱まり、ドルに底堅さが生まれ出した。

ドルの上値は重いものの、積極的に売る気配も途絶え、朝からドル円は106円程度で模様眺めの展開が続いていた。

‘神経を尖らせる様な相場ではない’
こんな日は保存フォルダーを一挙に整理するのに適している。

20件ほどメールを読み終えたところで、
「課長、財務省の吉住さんからお電話です」の声。

「‘俺の専用電話へかけ直してくれ’と言ってくれ」
吉住は大学の同好会の後輩である。
遠慮は要らない。

「吉住です。
先日はありがとうございました」
勉強会で講師を務めたことへの礼である。

「どうした今日は?
市場は静かだが・・・」

「先輩、坂本が転勤になるそうです」

「ふーん、そうか」
しらばっくれた。

「何だか知っていた様な口ぶりですね?」

「いや、関心がないだけだ。
それで、何処へ?」

「札幌財務局だそうです。
しかも、‘主計課付き’。

つまり、決められた役職・業務がないということになります。
将来を嘱望されていると自負していた人だけに、内示が出た瞬間は大荒れだったそうです」

「主計系統なら将来の復帰もあるし、良いんじゃないのか」

「仙崎さん、それはもう、無理ですね。
銀行員も子会社・関連会社に出向した後、本店に戻るケースは少ないと聞いていますが、
それと一緒ですよ」

「そっか、まあ会う機会があったら、宜しく言っておいてくれ。
他に用事がなければ、切るぞ」

「ドルも一旦、105円台で下げ止まった様だし、特にお聞きすることもありません。
あと、局長が近いうちに一杯やりたいと言ってました」

「分かった。
連絡、ありがとな」

 

週末の金曜日(9日)、財務省内は蜂の巣をつついた様な騒ぎになった。
森友学園への国有地売却に携わった近畿財務局員の自殺、そして佐川国税庁長官の辞任とあれば、当然のことだ。

今夜10時半に米2月雇用統計の発表を控えていたが、気分が乗らない。
公文書の書き換えや忖度疑惑の真偽は分からないが、犠牲者まで出してしまったことに大きな憤りを感じる。
憤りは当然、安倍首相や麻生財務相に向くが、官僚組織のあり方にも向く。

官僚組織の中でもがき苦しんだであろう犠牲者と、9年前の自分が重なる。

当時俺を追い込んだ田村が今、自分の後ろでのうのうとテレビを見ながら‘こりゃ、麻生はもうだめだ’とか‘安倍も危ないな’とか、声高に騒いでいる。

昨年日本海上との揉め事が起きた際に彼を潰しておけば良かったのかもしれない。
こういうヤツを放って置くと、再び俺みたいな犠牲者が出る。

当時、自死という考えは微塵もなかったが、組織への不信を抱き、IBTを辞す直前までいった。

そして大事な岬をも失った。
強く握った彼女の手を離さなければ、坂本と結婚することもなかったろうに・・・。

 

東京の10時半、米雇用統計が発表された。
注目されたNFP(非農業部門雇用者数)は前月比31万人増と、事前予想の20万人増を大きく上回ったが、平均時給が伸び悩んだ。

発表前106円台で推移していたドル円は一時107円05銭まで跳ねたが、それを追いかけて買う気配はない。

顧客のディールも、すべてドル売りである。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
FEDは「物価の安定」と「雇用の最大化」というデュアルマンデートを担う。
雇用が安定的に拡大していても、賃金が伸び悩めば「物価の安定」が遠のく。

3月のFOMCでは利上げが実施されるだろうが、今年3回と見込まれている利上げ回数を増やすためには、賃金の上昇が裾野にまで広がることが前提となる。
イエレン前議長が‘緩やかな正常化’を主張してきたのはこの点が確認できなかったからだ。

だが、大幅な税制改革が法人の設備投資を煽り、そしてウォール街の狂気を過熱させてからでは、強烈な利上げが必要となる。

その場合、景気をクラッシュさせてしまう可能性がある。

‘正常化は進めるが、急がない’というイエレン流をパウエルが踏襲するのか、あるいは一歩タカ派的な政策に打って出るのか’

新生FED内部でコンセンサスを見る日は遠い。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

為替市場の現場は今日の統計結果をそこまで深読みして動いているわけではないが、日付が変わってもドルは伸び悩んだ。

インターバンクでは、山下の他に二人、コーポレートデスクでは浅沼の他に二人が残っている。

「もう今日はここまでだな。
酒でも飲みに行くか」
皆を誘う様に言う。

「はい」・「いいですね」と一斉に嬉しそうな声が上がった。

その日‘Keith’で思い思いに飲み食いしながら過ごした。

閉店時間は疾うに過ぎていたが、マスターは不快な顔を見せない。

それどころか、
「皆さん、明るくて良い人達ですね。
でも、決して大騒ぎはしない。

流石、仙崎さんの部下ってとこですか」
と笑みを浮かべながら言う。

「ありがとう。
ところで、先日話した山下の送別会の件、30名ほどだけどお願いします」

「淋しくなりますね」

「ええ、相棒というか、弟みたいなもんですからね。
僕は先に帰りますから、20~30分したら、皆を締め出してください。
本当に遅くまで済みませんでした」
クレディット・カードの伝票にサインし終えると、会話を楽しんでいる部下を横目に店を後にした。

 

社宅に着いたとき、時計は3時を回っていた。
‘東海岸は午後1時過ぎか。
志保に電話をするには丁度良い時間だな‘。

「俺だ。
この間はありがとう。
例の財務省の件は決着がついた。
折が合ったら、お父さんにも礼を言っておいてくれ」

「そう、それは良かったわね。
雑誌の方も問題なさそう。

当初のゲラは坂本とかいう人が大学の後輩である編集者に無理やり書かせたものらしいわ。
パパの秘書の話では‘インターナショナル・レディーズ’に相応しくない内容なので、編集長自身で大幅に修正したそうよ。

でも写真は使いたかったらしいけど。
別に品が悪い写真じゃないものね」

「えっ、それで?」

「大丈夫、ここで撮った写真を送り、それと差し替えてあるはずよ。
もう雑誌発売になってるはずだから、暇があったら見ておいて。

あっ、了、ごめん。
これから会議なの」
電話の後ろで 彼女を呼ぶ声が聞こえる。

 

土曜の晩、国際金融新聞の木村に電話を入れた。
森友の一件、メディアの反応を聞いておきたかった。

「仙崎さん、珍しいですね。
そちらから電話とは」

「ええ、財務省の件、どこまで行きますかね?」

「安倍一強政権を危惧する声が相当に強いので、‘麻生さん、安倍さんの順に叩く’。
そんな感じですかね。

うちも書きますよ。
相当に強く。

ところで、来週の相場はどうでしょう?」

「日経平均がどこまで下がるかじゃないでしょうか。
米朝首脳会談決定でリスクオンとか、ニューヨーク・ダウ続伸とか言ってますが、それとは無関係に日経平均は危ない様な気がします。

佐川辞任の件は海外であまり反応してませんが、こっちは深刻ですからね。
‘日経平均下落に連れてドル円も軟調’なんてヘッドラインが並ぶ様な気もしますが。

その場合は、トランプの保護貿易主義がことさらに取沙汰されて、円高の支援材料になるって感じでしょうか。
9日の日米電話会談では、トランプも対日赤字に言及しているそうですし。

予測レンジは103円20銭~108円と幅を持たせます。

また、面白い話、聞かせて下さい」

「こちらこそ。
来週も宜しくお願い致します」

 

木村と話終えた後も、大きな何かが起きる予感がしてならなかった。

頭を振りながら、テーブルの上のウィスキーボトルに手を伸ばした。
BGMにはDave Grusin のサントラ・アルバム ’The Fabulous Baker Boys’ を選んだ。

ミシェル・ファイファーとジェフ・ブリッジズが演じた大人の恋物語。
映像とトランペットの音色が絶妙に合う映画だ。

‘次、岬に会えるのはいつだろう’

 

(つづく)

 

この連載は新イーグルフライから抜粋したものです。

第39回 「雪夜のしじま」

土曜日(24日)の夜、山下から‘岬の行方が分からなくなった’との連絡を受けた。

失踪の原因は、夫・坂本が彼女の留守中に母親に預けた封筒だ。
封筒には例の写真が入っていたに違いない。

だが、彼女が向かった先は見当が付いている。
奈川のペンション‘野麦倶楽部’のはずだ。

 

翌日(25日、日曜日)の早朝、四ツ谷にあるトヨタレンタカーでプラドを調達し、ひたすら関越道を走った。

更埴ICで長野道に入ると、少し空腹感を覚えた。
時間は正午になりかけている。
気付けば、朝から何も口にしていなかった。

姨捨SAに立ち寄ることにした。
この辺りまで来ると、晴れた日でもこの時期の長野は流石に寒い。
車を降りると、冷たい空気が肺に沁みる。

関東甲信越では評判の高いSAだけあって、建物の内装や土産物が洗練されている。
だが、今はのんびりと土産物を見てる余裕はない。
レストランにも入らず、サンドイッチとコーヒーを調達し終えると車に戻った。

腹が満たされ、コーヒーで少し体が温まると、シートを倒し込んだ。
昨晩浴びる様に飲んだラフロイグが今頃効いて来たのか、眠気を覚えた。

‘この先の道中のことを考え、少し仮眠を取った方が良い’
アウトドア用の腕時計SUUNTOのALARMを15分後にセットし、目を瞑った。

ALARMに起こされると、直ぐに脳は覚醒した。
就寝中に海外の電話で起こされることの多い為替ディーラーは覚醒するのが速い。

時刻は12時45分、松本ICまでは30分足らずである。
本線に戻るとプラドのアクセルを踏み込んだ。

 

松本ICから右に折れると上高地・奈川方面、左に折れると松本の市街地方面である。
市街でクラフト店を営む岬の母に会っておきたかったが、遠回りになる。
ステアリングを右に切った。

500メートルほど走ると右手にシェルのガスステーションが見える。
車をステーションに入れ、寄って来た店員に‘ハイオク満タン’と告げた。
給油中、店員二人が泥雪で汚れた窓ガラスを拭いてくれている。

岬が‘野麦倶楽部’にいることに確信はあったが、念のためペンションに電話を入れてみた。

電話にはご主人が出た。
ペンションを営む夫妻は仙崎のことをよく知っている。

「仙崎です。
お久しぶりです。
お変わりないですか?」

「ああ、仙崎さん。
去年の夏は釣りにならなくて悪かったね。

この電話は預かり物の件だね?
ちゃんと預かってるから大丈夫だ」
ビンゴである。

「そうですか。
ありがとうございます」

「ところで、今は何処かね?」

「松本インターを出たところです。
保管を宜しくお願いします」

「ああ、預かり物は今家内とダイニングでお茶してるよ。
君が来ることは内緒にしておくけど、それで良いんだな」

「はい、お願いします」

「新島々を過ぎるとカーブが多く、両サイドに雪が積まれてる。
道が普段より狭いから気を付けてな」

「はい、ありがとうございます。
それじゃ、また後ほど」

窓拭きを終えた店員が電話の終わるのを待っている。
寒いのに悪いことをした。
慌てて料金を支払い終えると、車線を跨いで右へとステアリングを切った。

 

ペンションの主人が言っていた様に道の両サイドに雪が積まれている。
新島々を過ぎると、道は少しずつ上りになる。
運転に集中した。
辺りは真っ白な雪景色だが、それを楽しむ余裕はない。

国道158号線、通称野麦街道は梓湖で分岐する。
梓湖を右に折れれば上高地方面へ、左に進めば野麦峠方面へとつながる。
ペンションへは野麦方面に向かう。

ここからはトンネルが幾つかあるため、より慎重にステアリングを操作し、野麦街道を進んだ。
30分も進むと、奈川村の中心部に近づいた。

中心部の手前から迂回の新道が出来ている。
幅員も広い新道を選択し、左へとステアリングを切った。

事故が起きたのはその直後だった。
対向車が雪で滑ったのか、こっちの車線に飛び込んできたのである。

衝突を避けようとステアリングを思いきり左に切ったが、その勢いで車は積み上げられていた雪の中に突っ込んでしまった。
相手の車も、同じ側の積まれた雪の中に突っ込んでいる。

幸いなことに体は何ともなさそうだ。
車から出ると、20代と見られる若者が‘済みません’と言いながら、こっちに近づいてくる。
怒りを覚えたが、冷静に‘大丈夫か?’と相手の体を気遣った。
‘はい、大丈夫です’と言って再び詫びる。

互いの体に問題はなさそうだが、一応事故なので警察を呼んだ。

2台とも車には損傷がある様だ。
こっちのプラドは左側のフェンダーが潰れ、タイヤと干渉している。
このままだと運転は無理だ。

四ツ谷のトヨタレンタカーに電話を入れ、後処理を任せた。
相手も保険会社とJAFに電話を入れて対応している様だ。

20分程でミニパトに乗って現れた警官から事情聴取を受けることになった。
相手のせいであることに納得した警官は、車に戻って良いと言う。

車は動かせないが、ギアをパーキングに入れ、車の中でレッカー車を待った。
車中からペンションのご主人に電話を入れ、事情を説明した。

「やはりそうか。
あまり遅いので、事故にでもあったのかと心配していたところだ」

「そんな訳で、もう少しで一通りの処理は終わります。
申し訳ありませんが、迎えに来て頂けますか?」

「分かった。
そうなると、岬ちゃんに事情を言っておいた方がいいな。
無事だったことだし。
30分ほどでそっちに行く」

 

二人を乗せたフォレスターがペンションに着いたのはもう5時近かった。
午後に入り少し曇って来たせいか、辺りは結構暗くなっている。

ペンションは道路から一段下がったところの傾斜地に建てられている。
「階段滑るから、気を付けてな」とご主人が気遣う。

念のためLLBeanのブーツを履いてきたが、それでも足下が心もとない。
何とか入口まで辿り着くと、ブーツの雪を落としてからドアを押した。

目の前に女性の二人が立っている。
奥さんと岬である。

岬は「了の馬鹿、心配したわ」
と言いながら、涙を隠さなかった。

そんな岬の姿を見た奥さんが二人をダイニングの隅に誘ってくれた。
今日はスキーに来たお客さんも全員チェックアウトした後なので、客は俺と岬だけだと言い残し、キッチンに入って行った。

話を切り出したのは俺の方からだった。
「凡その話は山下から聞いた。
お母さんには居場所は分かってると伝えてある」

「ここしかないものね。
私の来る場所。
着の身着のままで店を出て、直ぐにタクシーに乗ったのはいいけど、肝心の行く先が分からなかった。
運転手さんから‘何処へ’と聞かれて、突然‘奈川’って答えてた」

「そうか、まあ無事で良かったよ」

「ごめんね。
私のせいで、事故まで起こさせてしまって。
少し横になると良いわ。

私、料理の手伝いをしてくるから。
了の部屋は‘シラカバ’だっておばさんが言ってたわ。
夕飯できたら、呼ぶからそれまで寝てて」

 

シャワーを浴び、ベッドに横になると直ぐに睡魔に襲われたらしい。

夢の中で‘お夕食よ’という岬の声を聞いた様な気がした。
目を覚ますと、再び‘お夕食よ’という声が聞こえた。
今度は現実の声である。

気だるい感じを覚えながら、やっとの思いでベッドから這い出た。
社宅から走り尽くめで運転し、最後の最後で事故に会った。
‘疲れるのも無理はないな’

階下のダイニング・ルームに行くと、三人がテーブルを囲んで待っていてくれた。
他の泊り客がいないので、皆で食事と酒を楽しむ。
楽しい時間が過ぎるのは速い。

時間は10時を回っていた。
「それじゃそろそろお開きにするか」
主人がテーブルに両手をつきながら言う。

「私、片づけ手伝ってから行く。
了、‘例のところ’で待ってて」と言って、キッチンに食器を運び出した。
まるで老夫婦の娘の様に甲斐甲斐しく働くのが微笑ましい。

 

‘例のところ’とは、階段を上がった踊り場から奥まったところにある六畳ほどの空間のことだ。
昼間の’例のところ’は窓枠が額縁となり、その中に乗鞍岳が浮き上がる。

夜になると、漆黒の闇に星空が迫る。

かつて二人でここを訪れた初秋の夜、その空間にリクライニング・チェアを並べ、いつまでも数え切れないほどの星を眺めていたのが思い出される。

暫くすると、階段を上がってくる足音が聞こえてきた。
「お待たせ」と言いながら、
サイドテーブルの上にワインボトルとグラスを二つ置いた。
ご夫婦の差し入れだと言う。

雪で埋もれた山あいの夜のしじまは音一つしない。
二人は時折り、グラスに口をつけながら、額縁の中の星空を無言で眺めた。
普通ならば会話も要らないシチュエーションだが、今日はなぜか静けさがたまらなく辛い。

それに耐え切れなくなり、
「封筒の中身は写真だったのか?」
と切り出した。

「ええ、それと妙な文章が」
と言いながら、チノパンの後ろのポケットから折畳んだB5サイズほどの紙を広げて寄こした。

紙片は雑誌のゲラの様である。
それには
‘阿久津志保さん、熱愛中’
のタイトルで―――美人ポートフォリオ・マネージャーとしてニューヨークで活躍する阿久津志保がエリート銀行員と・・・―――。と書かれている。
そして紙片の余白に手書きで『インターナショナル・レディーズ4月号』と書かれている。

「うーん。
なるほどね。
ここまでやるかってとこだな。
それで、岬は何を気にして店を飛び出した?」

「最初は写真に写る男性の後ろ姿が了だったってことかな。
でもそれより、写真やその紙を持って夫が母の店まで訪ねてきてことが恐かったの。
まだ、近くにいる様な気がした」

「阿久津志保は確かにニューヨーク時代の恋人で、俺に就職の相談で帰国していた。
現場の写真はIBTの人間が撮ったものだ。

それが坂本さん、つまり君のご主人に渡ったということだ。
しかし執拗だな、坂本さんも。

このままでは、延々と終わらないな。
岬とご主人の関係、そして俺と彼との関係もな。

そこまではまだしも、無関係の志保にまで・・・」

「ごめんね、了」

「まあ、岬はすべてを忘れた方が良い。
すべて、俺が決着を付ける。
少し手荒いが、構わないか?」

「ええ、私は大丈夫」

「ところで、その月刊誌、発売日はいつだ?」

「月刊誌の発売は第一週のものが多いハズだけど、その月刊誌は分からないわ」

「そうか、まあ良い。
さぁ、ワインでも飲もう」
暫くそのまま星空を見ていた。
岬は志保とのことは何も聞いてこなかった。

すると、
「後で了の部屋に行っても良い?」
と言う。

もはや断る理由は何もなかった。

 

部屋に戻ると、大き目のデイパックからスキットルを取り出し、そこに入っている液体を一飲みした。
ラフロイグである。

ついでにBose のMini Sound Linkを取り出すと、WALKMANとBluetooth接続した。
BGMにBeegie Adairのアルバム ’I’ll take Romance’を流した。

1時間ほどすると、岬が部屋にやってきた。
白のワイシャツにチノパン姿である。

‘そっか、パジャマも持たずに飛び出てきたのか’

デイパックからスウェットを引っ張りだすと、それを岬に渡した。
大分サイズオーバーだが、チノパンを脱いだ姿に似合う。
というか、やけに色っぽい。

「何か聴きたい音楽はあるか?」

「ええ、’fly me to the moon’ が良いわ」

「この部屋からは星空しか見えないけど・・・」

「でも、詩の中に’let me play among the stars‘という箇所もあるわ。
だから、今のシチュエーションよ。
できれば、Nat King Coleのね」

Poets often use many words・・・・・
Nat King Cole の甘く優しい声が流れ出した。

倒れ込む様に胸に飛び込んできた岬をしっかりと受け止めた。

 

月曜日(26日)、銀行には寄らず、社宅に直行した。
志保に電話を入れるためである。

‘あっちは午前2時だが、まぁいいか’

「珍しいわね。
了の方から電話を掛けてくるなんて。
こういう時の了の電話は頼みごとよね」
少し眠そうな声だ。

「図星だ。
早速で悪いが、本題に入らせてくれ。
時間がないんだ。

‘財務省主計局の特別税制課に所属する坂本という男を本省から外してほしい。

『インターナショナル・レディーズ4月号』に志保の記事が掲載される。
帝国ホテルでの志保のハグが原因、というよりその時に撮られた写真が悪用されそうだ。

ゲラを見たが、あまり筋の良くない記事だ。
これもボツにする様に頼んでくれ」
志保の実の父は民亊党の元幹事長である。
彼女の母は彼の妾だった。
まだ永田町では相当な力を持つ人物と聞く。

「分かったわ。
急ぐ様だから、直ぐに電話を掛けてみる。
それと、マイクは本当に良い人ね。
ここでなら、良い仕事ができそう」

「それは良かった。
それじゃ、頼んだぞ」

 

火曜日(27日)、新FRB議長パウエルの議会証言があった。
ややハト派的と見られていたパウエルの発言は予想外にタカ派的なものだった。

発言で市場はドル買いに動いたが、ドル円は107円68銭で止まった。

年初からの抵抗線や先週の高値107円90銭の手前で有象無象の売りが湧く。
当然の市場行動だ。

木曜日(29日)、トランプの「鉄鋼・アルミに対して追加関税を課す」発言が飛び出た。
世界の金融市場が大きく反応した。

株売り・ドル売りが止まらず、金曜日にドル円は直近安値の105円55銭を抜き、105円25銭へと沈んだ。

 

その晩、志保からのメールが入った。
「例の件、問題ないと思う。
母と私を見捨てた負い目があるせいか、パパは何でも私の言うこと聞いてくれるから。

特に本件は私の問題が絡むから、真剣にやると思う。
それじゃ、また」

「ありがとう」とだけ書いて、返信した。

 

土曜日(3日)の晩、国際金融新聞の木村宛てに来週のドル円相場予測を書いた。

木村様

揉み合いを熟してドル急落。

また予測が当ってしまいました。

ここまで来れば、来週も「ドルの下値テスト」で行きましょう。

ただ、一応経験則では節目の105円を叩けば、達成感が出る可能性があります。

予測レンジ:103円50銭~107円50銭

埋め草は適当に

IBT国際金融本部外国為替課長 仙崎了

 

(つづく)

第38回 「失踪」

週初(19日)は中国や香港などが春節、そしてアメリカがプレジデント・デーということもあって、内外共にドル円は106円台で模様眺めの展開となった。

相場が動き出したのは、翌日のロンドン時間のことである。

安倍首相が「消費増税前の駆け込みとその反動減を懸念し、経済の下振れをコントロールする必要性」を主張したことが切っ掛けとなった。

市場に財政出動期待が浮上し、それがニューヨーク市場を煽り、円売り(ドル買い)に繋がった。

先週作った105円台のドルロングも奏功し、木村に送った予測も的中している。

水曜(21日)の東京では、日経平均が上昇するのに連れてドル円も107円90銭まで上昇した。

だが、期末を控えて実需筋や機関投資家が108円を一つの節目と見出した。
年初からの抵抗線も108円辺りまで下降している。
当然の如く、彼等や投機筋ドル売りが湧いて出た。

‘やはりここは上値が重たいな’

「山下、どう思う?」

「はい、東京はもう一杯でしょうか。
あとは海外がもう一回上値を試すかどうかでしょうか?

課長のコストは悪くないので、一晩だけ待ってても良いかとは思いますが・・・」

「そうか。
今、返す刀でショートを振るってアイディアはどうだ?

まだシカゴ*の円ショート(円売り持ち)は大分残ってるな。
沖田の話じゃ、少しずつ手仕舞ってる(円を買い戻してる)様だが、彼等にも焦りがあるはずだ。

やはり、売るか。
俺は50本、シング経由で売る。
お前は50本、EBSで売ってくれ」

「81で50本、80で20本」

「了解、こっちは80で全部。
50本は5円台の利食いで処理しといてくれ。
後は放っておく。

お前も20本売ったのか?
一応、8円が抜けたらストップを入れおいた方が良いな。

もう少し頑張るなら、8円60(108円60銭)takenでも良いけど」
8円60はテクニカル上の重要ポイントだ。
当然、そのことは山下も分かっている。

「いえ、8円丁度takenで入れておきます」

「もう期末の収益はあまりブラせないから、それが良い。
そうだな、そろそろ皆にもそれを徹底しておく時期か。

山下、明朝のミーティングでそのことを皆に伝える。
俺が言い忘れたら、その時はリマインドしてくれ」

「はい」

 

週後半(22日)になると、案の定ドルの上値が重たくなり出した。

ニューヨークの沖田の話では毎日昼近くになるとコンスタントにシカゴの売りが出てくるという。

前日に公表された1月のFOMC議事録はタカ派的な内容だったが、市場はむしろ地区連銀総裁のハト派的な発言に反応しやすくなっている。

この日に飛び出たブラード・セントルイス連銀総裁の「速過ぎる利上げペースは経済成長を阻害する」という発言が週末に向けての相場を決定づけた。

今年のFOMCでは3回の利上げが市場のコンセンサスだったが、それが2回という声も出始めている。

経済政策の波及経路のことも全く分からずに「低金利政策が良い」と言い続けているトランプ、そして立場も弁えずに「ドル安はいいことだ」と言い放った財務長官ムニューシン、そんな政権下でFRB新議長に就任したパウエルもややハト派的と言われる。

‘金利相場がまだ続きそうだな’

ブラード発言で長期金利が低下し、俄かロングの投げでドル円は週末に106円台半ばへと下落した。

 

土曜日は社宅から出ずに、終日片づけに徹した。
週に一度は横浜に住む母親が掃除をしに来てくれるが、デスクや書棚の整理には手を付けない。

夜の8時過ぎ、宅配ピザが届いた。

岬の言いつけである「野菜不足に注意」を守り、キャベツ、トマト、レタスそれにキューリを適当に切って粉引の中鉢に入れた。

7寸の中鉢は粉引で人気の高いらしい花岡隆の作だという。
岬からのクリスマス・プレゼントである。
磁器ものが本来好きだが、これを見ると陶器も悪くないと思う。

野菜に塩をふり、バージン・オリーブオイルをたっぷりとかけた。
その上からパルメザン・チーズを振る。
悪くはない味だ。

冷蔵庫から母親が買っておいてくれたビールのロング缶を取り出す。
すべてをPCの置いてあるデスクへと運ぶ。

Miles Davisの ‘Kind of Blue’をBose の Music System に差し込む。
So whatが流れ出した。
少し重いが、Miles の巧みなトランペットのせいか気にはならない。

ビール、サラダ、ピザの順番を繰り返しながら、腹を満たしていく。
PCのトップ画面のヘッドラインは冬季五輪のニュースだらけだ。
‘つまらないな’と思いつつ、Outlookをクリックした。
国際金融新聞の木村に来週の相場予測を送るためである。

 

木村様

まだ僕の予測、当り続けてる様ですね。

もっとも、ここからは少し難しい局面を迎える様な気がします。
恐らくは揉み合いかと。

現状が年初からの安値圏なので、ここで上下動が激しければ、‘ドル下げ一相場’は終焉するかもしれません。

ただ、本邦輸出企業が決算を迎えるこの時期、海外からの利益・配当の還流(外貨売り・円買い)も考慮すると、需給は緩い様な気がします。

FEDの年内利上げ4~5回説まである様ですが、減税の波及効果が余程前倒しで顕在化しないと無理なので、‘為にする’エコノミストや自称ストラテジストの話に過ぎないでしょう。

それはそれとして、予測ですが、一応「ドルに下方リスクが残るなか、揉み合う展開」程度でまとめて置いて下さい。

シカゴ筋の円売り越し・手仕舞いの加速には注意しておいた方が良いかもしれません。

予測レンジ:104円50銭~108円50銭

有体な予測で申し訳ありません。

IBT国際金融本部外国為替課長 仙崎了

 

メール出し終えたところで、スマホが鳴った。
山下からである。

「めずらしいな、土曜日のこんな時間に。
どうした?」

「了さん、少し拙いことが起きました。
家内曰く、岬君、いえ岬さんが消えてしまったと言うんです」
山下はプライベートの時間で’俺を課長’とは呼ばない。

「どういうことだ?」

「はい、岬さんのお母さんから家内に電話があり、昨日の昼過ぎにご主人が突然店に現れたということです。

お母さんが‘岬は今、金沢美術工芸大の聴講で出かけています’と伝えると、‘これを岬に渡してくれ’と言い残し、直ぐに店を出て行ったそうです。

そして岬さんが戻ってきたところで、お母さんは坂本さんが来たことを伝え、封筒を渡したそうですが、その中身を見た途端、飛び出す様に店を出てってしまい、それから戻らない。
ざっとそんな話ですが・・・」

「それはまずいな。
それで奥さんは岬に電話をしてくれたのか?」

「それがお母さんの話によると、スマホも部屋に置かれたままだそうです。
相当動揺してた様ですから」

「分かった。
今日はもうアルコールを入れてしまったので、運転はできない。
明日、レンタカーを借りて松本に行ってくる。

多分、月曜は銀行に行けないな。
デスクは任せたぞ。

東城さんに話しておいてくれ。
彼には全部話しても構わない」

「了解です。
明日、お気を付けて。
失礼します」

 

‘少し頭を冷やさなければならない’
ラフロイグをグラスに注ぐと、’A Windham Hill’の’Christmas’をMusic Systemに挿入し、[The First Noel]のトラックをrepeat 設定にした。

シーズン外れだが、頭を冷やして物事を考えたいときには最高のトラックだ。
泣ける曲だが、岬の気持ちを考えるのには良い。

ラフロイグを数杯呷ると、脳中枢が刺激された。
The first Noelのメロディーが懐かしい雪山の小屋の光景へと誘う。
もう彼女が向かうのはあそこしかない。

 

(つづく)

 

注:
*シカゴ:IMM(International Monetary Market)、シカゴにある先物市場(CME)の通貨部門。

 

この連載は新イーグルフライから抜粋したものです。

第37回 「途絶えた連絡」

―――財務省に依頼された勉強会は無事終了した。

勉強会とは名ばかりで、実際には局長クラスを中心とした講演会的なものだった。

大学の後輩である吉住の話では、会の前日になって急遽、坂本が部屋の変更を伝えてきたという。

吉住は局長クラスが出席することも知らされてなかったとのことだ。

俺が当日になってお歴々を目の前にすれば、たじろぐとでも思っての企みだったのである。

だが、俺は慌てることもなくテーマを変更せずに事前に用意した『行動経済学と為替相場』についての話をした。

抽象的なテーマだが、内容が市場心理を追及したものだっただけに、参加者全員を話に引き込めた様である。

話の内容に納得する声が漏れ聞こえたことや閉会後の拍手が、スピーチが成功だったことを物語った。

逆にそのことは坂本を苛立たせ、そして妻のかつての恋人だった俺への嫉妬を募らせた様だった。

勉強会の後に俺を呼び止めた彼は、「これから先、何が起きるか楽しみにしておけ」と捨て台詞を残して自局のある建物へと消えて行った―――

 

週初(12日)の東京市場は建国記念日の振り替え休日で休場となった。

東京市場が休場の日は余程の事が起きないと、アジアの時間帯は静かである。

この日も同様で、ドル円は108円台後半、ユーロドルは1.22台での模様眺めの展開に終始した。

だが、翌日には再び幅広い通貨に対してドルが売られ出した。

特にドル円は黒田日銀総裁が「低金利の銀行収益への影響」に言及したことで、下方モメンタムが付いてしまった。

本邦要人から急速に進む円高に対する牽制発言も出たが、市場はそれらを無視してドル円を売り込んだ。

昨年のドル円最安値107円32銭を割り込むと、ストップロスを巻き込む格好で一挙に106円台へと突っ込んだ。

週末(16日)の東京では、午後に入り、ドル円は1年3か月ぶりの水準となる105円台半ばまで急降下した。

そんな折、東城からの電話が入った。

「どうだ?」
当然、市場のことである。

「はい、これ以上は無理だと思います。

実需筋がドルを売り始めたのは110円割れ、そして108円割れといった水準です。

ですが、7円32銭を割り込んで以降は実需ではなく、アルゴリズム系も含んだ投機筋の動きが中心かと。

何の理屈もないことですが、ドル円の5円刻みの水準では上りも下りも止まるか揉み合います。

足下の105円近辺も同じ様な展開になるのではないでしょうか。

まだドルの先安感は残っているのですが、とりあえず、ここらで少し買ってみます。

戻りが悪い様でしたら、直ぐに手放しますが」

「そうか、分かった。

ところで、まだ約束した新年会もやってなかった。
財務省の件もとりあえず終わったことだし、今日は銀座の‘下田’へでも行くか?」
下田とは銀座6丁目にある寿司処である。

「はい、そろそろかと期待していました」
電話の向こうで東城が渋い笑い顔を浮かべてるのが手に取る様に分かる。

「それじゃ、7時に予約をいれておく。
俺は出先から直行するから、現地で会おう」

「それでは、失礼します」
と言って、受話器を置いた。
久しぶりの東城との酒席である。
‘楽しみだ’

 

‘下田’の暖簾をくぐると直ぐに、
「おっ、いらっしゃい。若旦那」と言う、
威勢のいい店主の声が迎えた。

「若旦那はないでしょ、大将」

「東城さんの跡継ぎだから、若旦那で良いじゃないですか」
笑ってごまかすしかなった。

席に着くと間もなく東城が現れた。

笑い声が入口の外まで届いたのか、
「楽しそうじゃないか
どうせ俺の悪口でも言ってたんだろう」
と東城が言う。

 

「まぁ、そんなとこですか。
ところで、飲み物は何にしましょうか?」
店主が話をそらす様に言う。

「ビールの後、熱燗かな。
後はいつも通りで頼む」
下田では、特別な依頼をしない限り、店主任せだ。

運ばれてきたビールで乾杯し終えると、財務省の話を自分から切り出し、一連の話を東城に伝えた。

「そうか、それは御苦労だったな。
国金局長の竹中さんから礼の電話を貰ったが、良い内容だったらしいじゃないか。
彼も随分喜んでたよ。

それにしても坂本さんには弱ったもんだな。
彼が御主人じゃ、岬君も相当に苦労しただろう。

あの時彼女がお前の後を追っていたらと思うが、人生の悪戯ってやつに引っかかってしまった様だな。

そう考えると、俺がお前をニューヨークに行かせたことに責任を感じるよ」

「そんなことはありませんよ。
この件は僕自身の不甲斐なさから生じたことです。

坂本さんを夫に選んだのは彼女の不幸ですが、その不幸への引き鉄を引いてしまったのは僕です。
僕さえ田村さん等の罠に嵌らなければ良かったわけですから・・・」

「ところで、彼女は元気にしてるのか?」

「大分元気にはなった様な気がします。
ですが、さっきお話しした様に坂本さんが例の写真を彼女に送る可能性があります。

もしかしたらもう、送ってるかもしれません。
あれを見たら、少なからず岬も傷つくでしょうね。

2・3日に一度は必ずメールか電話があるのですが、このところ途絶えています。
僕の方から電話すればいいんでしょうが、写真の件でなんとなく探りを入れる様な気がして・・・。
拙いですよね」

「お前らしいとは言えないな。
早めに連絡をとってあげた方が良い。
市場にいる時の仙崎了らしくな。

それはそうと、下期も目標以上の成果を上げている。
市場以外の問題も多くて大変だったが、良く頑張ってくれた。
感謝するよ」
と言いながら、空いた盃に熱燗を注いでくれた。

「残り一カ月半で何も起きなければ、良い結果を残せそうです」
今度は東城の盃に注ぎ返した。

旨い寿司で、旨い酒を飲んだ後、二人は店を出た処で別れた。

「それじゃ」
と言い残すと、後ろ手を振りながら東城は7丁目方向へと歩き出した。

何処へ向かうのかも問わず、
「ご馳走様でした」と応えて、自分は晴海通り方向へと向かった。
目的はカウンター・バーの‘やま河’である。

 

‘やま河は’すずらん通りを晴海通り方向に向かって5丁目の真ん中近辺にある。
バーは地下一階にあるため、目立たない。
そのためか、カウンターが一杯になるのを見たことはないが、ママは‘あまり混まない方が良いのよ’と言う。

少し重いドアを押し開けると、
ママの声が聞こえてきた。
「いらっしゃい。
今日は山下さん、一緒じゃないの?」

「ええ、上司に誘われて、今そこで別れたところです。
いつものヤツを頼みます」

ラフロイグを注いだクラスとドライド・フィグ(イチジク)をカウンターに置きながら、
「少しお疲れの様ね」
と言う。

「そう見えますか?」
市場から離れ、アルコールが入ると岬のことが気になる。
それが顔に出るのかも。
‘拙いな’

一気にグラスを空けると、次のグラスを頼んだ。
心配する様にママは見つめるが何も言わない。
それが今は嬉しい。

Keithの’Melody at Night, with you’が静かに流れ、少しずつ心に潤いを帯びてくる。
そんな心の中を見透かすように
「仙崎さんは本当にKeith Jarrettがお好きなのね」
と微笑みながら言う。

「ええ、ジャズ・ミュージシャンの中では3本の指に入るかもしれません。
ママも何かお好きなものをどうぞ」
とアルコールを誘う。

 

土曜日の晩、国際金融新聞の木村宛てに来週のドル円相場予測をメールした。

木村様

とりあえず、ドルが戻すかと思います。

‘三陰線連続の叩き’は買いのサインとも言いますしね。

当り続けてきた予測も外し頃なので、もっと落ちるかも知れませんが・・・。

埋め草は適当に!

予測レンジ:105円~108円75銭

 

すかさず、木村からの返信があった。

仙崎様

毎週、予測をお送り頂きありがとうございます。

毎週当り過ぎですね。

ウェブ刊では仙崎さんのドル円相場予測のヒット数がダントツです。

今後共、宜しくお願い致します。

国際金融新聞 木村

 

(つづく)

 

この連載は新イーグルフライから抜粋したものです。